『職場における肝炎対策』
2年前のこの【相談員から一言】欄で「職場における肝炎対策」の必要性について述べました。私どもは、平成23年度 厚生労働省 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究事業(肝炎関係研究分野)の中の「職域における慢性ウイルス性肝疾患患者等に対する望ましい配慮の在り方に関する研究」分野で採択され、研究補助金による研究事業として、「職場における慢性ウイルス性肝炎患者(以下肝炎患者)の実態調査とそれに基づく望ましい配慮の在り方に関する研究」の研究班を立ち上げ、調査研究を行ってきました。現在3年間の研究成果をまとめていますが、その一端をご紹介いたします。
現在、B型・C型肝炎は早期発見することで、病態の改善や治癒が期待できる有効な治療法が存在するため早期発見、早期治療が重要です。しかし、肝炎ウイルス検査の受診率は依然低いため、多くの成人が働いている職域での肝炎検診の意義は非常に大きく、また、肝炎の治療は長期間にわたるため、働きながら治療を受けられるように職域での配慮が必要です。本研究では、会社、産業医、労働者、患者、専門医を対象に大規模調査を行うことで実態を把握し、以下の点で今後の肝炎対策策定に役立てようとするものです。
(1) 労働者のプライバシーに配慮した肝炎ウイルス検査の実施状況
(2) 働きながら治療を受けられる体制の有無
(3) 労働者の病状に配慮した適正配置の有無
(4) 労働者の慢性ウイルス性肝炎に関する認識度
(5) 専門医、労働者、産業医間の連携
平成23年度は、神奈川、東京、埼玉の事業者から無作為抽出された25,000社を対象として実態調査を行い、7,109の調査票を回収しました。その結果、厚生労働省からの通達の周知度は10.3%と低く、肝炎ウイルス検査実施率も17.9%にとどまっていました。肝炎に関する啓発活動の実施は6.1%、肝炎治療が必要な従業員について就業上の配慮がある事業者は24.7%、いずれも従業員規模が大きいほど高い割合を占めていました。
平成24年度は西日本の事業者25,000社を対象として実態調査を行い、回収数9,349を得ました。通達の周知度は11.9%とやはり低く、肝炎の治療が必要な従業員への就業上の配慮がある事業者は23.4%と、前年度と同程度でした。肝炎ウイルス検査の実施率は15.7%、肝炎に関する啓発活動の実施は8.1%と、前年度と同様に低い結果でした。平成25年度は全国の肝疾患相談センターを対象とした就労支援の実態調査を実施し、約半数の施設で治療と就労に関する相談があり、内容としては「仕事内容による他人への感染の心配」、「治療時間の確保」が多い割合を占めていました。
一般労働者に対するアンケート調査では、肝炎患者労働者に対し約3割が偏見を有していました。また、肝炎労働者に対するアンケートでも、15%の労働者が職場で偏見を感じる、また、30%の労働者が他人に感染させてしまうのではないかと恐れていると回答しました。一方では、37%の肝炎労働者は、医師から特別指示がないとの理由で、医療機関を定期的に受診していないと回答しました。
産業医に対するアンケート調査では、肝炎検査結果の取り扱いについては早期発見、治療のために、産業医が積極的に検査結果を取得すべきとの意見が半数を超えました。就業上の配慮として、早期から飲酒を伴う営業、発展途上国勤務、長時間残業は不可とする意見が6割を超えていました。
現在、収集された事例及びこれまでの調査結果を広く社会に還元するためにWebシステムを開発しています。現場の産業医や衛生管理者等が、肝炎に罹患した労働者の健康管理を行う上で参照できるよう、本人からの状況確認や受診勧奨、受診結果を踏まえた保健指導や就業上の措置、通院状況の確認、治療継続支援、就業上の措置で類型化したフローチャートで呈示し、カーソル指示で具体的事例を表示させる他、労働者の属性や肝炎の病態ごとに表でまとめて参照し易いよう工夫しました。近々完成予定ですので、広く皆様方にご利用いただければ幸いです。
今後の課題として、産業医が選任されていない中小事業場における肝炎対策と就労支援があります。そのためには、保健所、産業保健推進センター等の地域・職域の関連機関に肝疾患相談センターを包括した連携モデルによる肝炎対策と就労支援が必要であると考えています。
(文責)相談員 渡辺 哲