『障害者雇用』
皆様もご存じのように、障害者雇用率制度は「障害者の雇用の促進等に関する法律」で、事業主に対して、その雇用する労働者に占める身体障害者・知的障害者の割合が一定率(法定雇用率)以上になるよう義務づけている制度です。この4月から法定雇用率が1.8%から2.0%に引き上げられ、対象となる事業場規模も従来の56人以上から50人以上と引き下げられました。また、障害者雇用促進法が改正(2016年4月公布、一部公布日又は2018年4月施行)されることも決まりました。この改正などにより労働・雇用分野における障害者の権利に関する条約への対応を図ることを目指していくようです。
現在は精神障害者について雇用義務はないものの、雇用した場合は身体障害者・知的障害者を雇用したものとみなされていますが、この改正で精神障害者の雇用が義務づけられ、2018年4月からは法定雇用率の算定基礎の対象に精神障害者が追加されますので、自然と法定雇用率は上がります。しかし5年間は従来の対象によりされた法定雇用率と新しい算定雇用率の間になるとのことです。雇用率が上昇すること対して、雇用者を増やすためにどう対応するかを企業の人事採用の方々は考えなければなりませんが、併せてこの改正によって障害者に対する差別が禁止され、障害者に対して合理的配慮を提供する義務が事業者に課せられることになります。
障害者に対しての合理的配慮を考える際には、設備など職場環境面、人的支援、現場でのマネジメント配慮が必要となり、その際には外部資源でのサポートも整備されるでしょうが、産業衛生スタッフの協力が不可欠になっていくのではないかと思います。近年導入が奨められているリスクアセスメントですが、それぞれの職場で何らかの障害を持った方の視点でアセスメントをされたことはあるでしょうか。英国のHealth and Safety Executive(HSE)が出している Health and safety for disabled people and their employers には5ステップのリスクアセスメントの2番目、どんな傷害や疾病など損失が,だれに生ずるおそれがあるか検討というステップの「誰」には障害者も含まれると記載されています。改めて今行っているリスクアセスメントを考えてみる必要もあるのではないでしょうか。
そして精神障害、発達障害、高次脳機能障害の方々が就業を継続できるようにするためのサポートは、従来の身体障害の方々への対応手法では困難であることは容易に想像でき、精神障害者等の障害特性を踏まえた支援の必要性となってきます。
現在でも産業保健スタッフはメンタルヘルス不調に陥った方の復職に際してその困難さを実感しているのですが、今後は今培っているその対応力を次の精神障害者雇用というステップへつなげていくことが求められてくると思います。
独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センターは、2012年4月に精神障害者雇用管理ガイドブックを発行しています。精神疾患の特徴と留意すべきポイントやすでに取り組んでいる事業場、企業の具体的な取り組み方も紹介されています。機構のHPからダウンロードもできますので、ぜひ参考にされると良いと思います。
(文責)相談員 森田 哲也