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相談員から一言 バックナンバー

『職域におけるがん予防戦略』

 昨年来問題となった印刷職場における「胆管がん」の発生は、職域における化学物質管理の重要性と職場環境改善の重要性を改めて認識させることとなりましたが、ここ数年幸いなことに業務上疾病としての「がん」の発生は一桁に留まっています。一方、人口動態統計によれば日本人の二人に一人はがんに罹り、三人に一人はがんで死ぬという時代になってきており、がんの発生そのものは増加の一途を辿っているのが現状です。そこで、職域においてがん予防のために何が出来るか。いくつかの点について述べたいと思います。

 二次予防(早期発見):従来から行われている「がん検診」で一部が定期の健康診断に取り込まれたり、人間ドックの受診勧奨がなされたりしていて、「がん対策推進企業アクション」 として推進キャンペーンも図られております。  

 一次予防:いくつかの「がん」については、発症メカニズムが解明されており、原因物質を断つ、感染を防ぐ、細菌・ウイルスを断つといったことで、予防出来ることが解って来ました。
 肺がんは言うまでもなく「タバコ」が一番の原因ですから、職場での受動喫煙防止はもとより、禁煙サポートの充実にこれからも積極的に取り組むべきと思います。
 
 胃がんは「ピロリ菌」の関与が大きいことが知られていましたが、今年から除菌療法の保険適応が拡大され、内視鏡で胃炎が確認されれば潰瘍まで至らなくでも除菌療法が受けられるようになりました。このことも職域で周知して頂ければ将来の胃がん予防に繋がると思います。

 肝臓がんも大部分はB型C型肝炎ウイルスの感染から慢性肝炎・肝硬変へと進行し、そこからがんが発生して来ます。慢性肝炎のコントロールやウイルスの排除については、近年新しい薬も開発されておりますので、健康診断で肝機能に異常を認めた場合は、一度はウイルスのチェックを受け、B型もしくはC型の肝炎ウイルスが陽性に出た場合は、専門医にご紹介頂きたいと思います。

 B型肝炎ウイルスの持続感染者は長期的には減少傾向にありますが、中国をはじめ東アジアはその割合が高い地域ですので、小児期にワクチンで予防することも大切と考えます。その他、子宮頚がんもヒトパピローマウイルスの感染によることが知られているので、ワクチン接種が定期化されました。接種後の副反応が懸念され積極的な勧奨は見合わされる事態になりましたが、今後因果関係が解明され安心して接種頂けることを願う次第です。
 
 以上、職業疾病は幸い減少している中で、生活習慣病予防とがん予防は職域において益々大きなテーマとなることでしょう。最新の情報にも目を配り各職場においても積極的に取り組んで頂きたいと思います。
 
(文責)相談員  千葉 宏一
独立行政法人 労働者健康安全機構
神奈川産業保健総合支援センター
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