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相談員から一言 バックナンバー

『大震災で感じたこと』

 2011年3月11日に思いもよらない大地震とそれに伴う大津波に見舞われた。

 東日本の太平洋沿岸一帯が大地震と大津波により壊滅的な被害を被った。
 思えば、17年前に発生した阪神淡路大震災の状況が繰り返されたかのような印象を受けたのは私ばかりではなかったと思います。17年前の大震災発生の状況は朝のテレビで知り、大変な事故だと認識したことを覚えている。

 当時は現役であり神奈川県下のアスベストを含有する建築物の解体に伴うアスベスト飛散防止対策について作業員の皆さんに指導を行っていた。アスベストの“ばく露”による健康影響については神奈川県横須賀市、座間市、厚木市、横浜市といった基地内で働く一部建設業者を対象にして米国・EPA公認のカリキュラムに基く「アスベスト・トレーニング教育」を行っていた。アスベスト撤去工事に携わる全ての作業者にはアスベスト・トレーニングを受講することを義務付けている。

 この様な仕事をしていた関係で、当時阪神淡路大地震による建物の倒壊等粉じんの飛散は勿論アスベスト粉じんによる“ばく露”という健康影響が心配されたことを覚えている。
 学校施設の体育館天上部に吹き付けられたアスベストの撤去作業時における粉じんの飛散濃度は試験的に計測した段階で基準の1000倍前後にまでおよび、密閉空間とはいえ驚くべき数字であった。
 阪神淡路大震災の瓦礫処理等に携わったボランティアの方々の多くは短期間の間、被災地に応援に駆けつけ献身的な働きをされたと伺っている。アスベスト粉じんが飛散する中での活動であったと推察される。当時の粉じん対策は充分とは言えず、防じんマスクの支給もママならない状況ではなかったかと推察された。
 2012年6月ボランティアとして2ヶ月間解体現場で作業していた男性が石綿疾患の中皮腫と診断され亡くなった。という新聞記事を拝見した。
 この男性と同じように多くの方々が苦しんでいる実情を知るにいたり、東日本大震災での被災地の瓦礫対策にボランティアとして応援に駆けつけた人達は大丈夫だろうかと気にかけている。
 
 2011年7月に保護具メーカー各社と労働科学研究所等により結成された“フィットテスト研究会主催による「第2回フィットテストインストラクター養成講座」に参加する機会を得た。
 その席上、2011年3月以降、被災地でのボランティア活動に積極的に参加した人達に簡易防じんマスクを提供する件が話題に上り保護具メーカーの協力の下、現地に赴き活動を開始したとの報告があった。阪神淡路大震災での教訓を生かした、すばやい行動に安心感を抱いた記憶がある。
 
 現地での瓦礫処理に携わった多くの人達がアスベスト粉じんや細菌にどのように対処しているのか気になるところであったが、先ずアスベスト粉じんによる“ばく露”が心配であった。
 2012年6月28日 「第7回東日本大震災アスベスト対策合同会議」が厚生労働省白金台分室大会議室で開催され参加の機会を得た。出席者は環境省、厚生労働省、自治体等であり「被災地におけるアスベスト大気濃度調査結果について」「アスベストの飛散防止対策及びばく露防止対策に係る現状と課題について」等5つの議題について説明があった。自治体からは、青森県、岩手県、福島県、栃木県、茨城県、そして千葉県の6自治体の担当者が出席された。
 自治体から「ボランティアに対する石綿ばく露防止教育」の実施状況について栃木県を除き宮城県を含めた6自治体の実施状況が書面で公表された。
 対象者数はおおよそ25万+不特定多数に及び対象人員のうちマスク持参者は半数にも満たない現状であった。

 特筆すべきは宮城県多賀城市の教育対象人員18,000人のうちマスク持参者6,000人、マスク配付者12,000人で作業前のオリエンテーションで必ずマスクを着用するよう促した-との報告があった。阪神淡路大震災での教訓を生かし、アスベストについて、その危険性・マスク着用義務と着用方法・掲示物による注意喚起等きめ細かな対応を実施した自治体が数多く見られた。
 防じんマスクとして、N95マスクを着用するところもあり、自治体職員がマスク着用の研修を受け、毎朝のオリエンテーション時にボランティアに指導をするところが多く見られたのは良かったと感じた。
 しかしながら防護体制(特に防じんマスク等)のないまま現地に赴きボランティア活動をされた方々も半数近くに上る実態を知り将来、阪神淡路大震災の健康影響が心配である。 
 配付資料の中に「平成23年度に実施した震災被災地での気中石綿濃度モニタリング結果概要」が示されたが、青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、千葉の7県について建築物解体時のモニタリング結果では気中石綿濃度が10f/lを超えた現場(事業)数は6現場であった。

 検出されたアスベストの種類は多くはアモサイトでありクリソタイル、クロシドライトが一部混入していることが示された。
 この様な石綿の漏洩、飛散が認められた現場では、作業に従事する労働者に防じんマスクの着用を徹底した。との報告があった。
 瓦礫処理が進む中、作業に従事する労働者に対しては防じんマスクの着用を徹底されることが重要であると思います。関係者のご苦労も並々ならぬものがあると思いますが、先ずは防じんマスク等保護具の着用を徹底させることが必要であると思います。
 アスベストによる健康影響を少しでも低減させるためにも関係者のご努力に期待したいと願っております。
 
(文責)相談員  白須 吉男
独立行政法人 労働者健康安全機構
神奈川産業保健総合支援センター
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