相談員コラム
産業保健の基本のキ
~法律から産業保健をみてみよう~
相談員 丸山 泰子
私が保健師になったとき(厳密には学生時代ですが)、恩師に、「保健師は法律を具現化するのが仕事だ」と、言われました。
確かに、自治体保健(地域保健)は母子保健法、結核予防法など、学校保健は“学校保健法”を軸に、そして産業保健は“労働安全衛生法”を軸に、労働基準法、育児介護休業法など、様々な法律と供に活動をしていきます。そして、事業場の従業員には“就業規則”という所属先独自の法律にも沿って日々働くことになります。(自治体でいうと条例、学校保健でいうと校則にあたると思います)ですので、働く人を支援する、伴走するにはそれぞれのルールを知っていることが、知って使えるようになることが重要となります。
まさに、これが法律を具現化するということなのです。
私たち、産業保健職はもちろん医療のスペシャリスト(資格保有者)ではありますが、事業所においてはジェネラリストとしての働きを求められることも多いものです。疾病や健康についての対応だけでなく、それに伴う働くための支援を求められる場面が多いものです。その時、考える軸になるのが関連するルール(関連法規)になります。
例えば、がんになり仕事を休むことになった従業員から相談を受けたとします。
「がん治療にはお金がかかるので仕事を休むことが不安」と休暇とお金の相談がありました。まず、公的なルールを確認してみましょう。日本は国民皆保険制度があり、会社勤めの人で健康保険に加入している場合は、健康保険組合で「限度額受給証明書」を発行してもらい、医療機関窓口での支払いを一定額以上免除してらうことが可能です。そして、仕事を休んでいる間の就業保障として、一定の基準を見たいしていれば傷病手当金を受給することも可能ですので、安心して治療に専念することができます。また、会社はどのくらいまで休んでもよいのか、復職するときはどうしたらよいのかなどは、会社の就業規則を確認していただくことになります。就業規則は事業所ごとに異なりますので注意が必要です。医療職としては、がんという疾病特性から、治療に専念できるようにして、たくさん休ませてあげたい。と、思うかもしれません。でも、残念ながら対象従業員の思いにすべて沿うことはできません。しかし、ここからが腕の見せ所です。ルールを活用し、今あるルールの中で、対象となる従業員がより安心して治療ができ、治療後に安心して働けるのか考え、伴走していく必要があります。そして、医療職のスペシャリストの側面として、治療前に準備しておいた方がいいこと、復職後にどのように体調管理をしたらよいかなどを助言もすることができるのです。
ルールは、堅苦しいもの、活動を縛るものととらえがちですが、ルールを知って正しく活用してくことは産業保健活動の幅を広げることにもなります。ぜひ、産業保健に関わる法律を見直してみませんか。きっと、皆さんの活動を支える右腕となってくれるでしょう。
各産業保健総合支援センターでも「産業保健ハンドブック」をお配りしていますので、ぜひご活用ください。また、センターでは産業保健職の皆様に向けた研修を様々開催しています。その中には、法による産業保健の支援となるような研修もあります。今年度は化学物質管理にまつわる大きな法改正がありました。それらの研修なども開催しています。一度、センターのホームページをのぞいてみてはどうでしょうか。そして、困ったとき、悩んだときはいつでもセンターの相談窓口をご活用ください。
皆さまの活躍を応援しています。